ABM(アカウントベースドマーケティング)が切り開く日本企業の新たな成長戦略

戦略 ABM Column
ABM(アカウントベースドマーケティング)が切り開く日本企業の新たな成長戦略

こんにちは、シンフォニーマーケティングの庭山です。
今日はABMの話にフォーカスしたいと思います。実は2月22日に私の8冊目の本が発売されました。「法人営業は新規を追うな 重要顧客と最高の関係を築くABM」と、ちょっとショッキングなタイトルです。実は私は、2016年にABMを日本で初めて紹介した本を書きました。それから約9年が経ち、世界のB2Bマーケティングは大きく進化し、私たちの会社も多くの実績を積み上げてきました。この進化に合わせて、新しい知見をお伝えしたいという思いで今回の本を執筆しました。

現在、グローバルのB2Bマーケティングでは、ABMが主流となっています。外資系企業のマーケティングマネージャーに話を聞くと、「ABMでなければ予算が取れない」と言われるほど、ABMは成果を上げる手法として広く認知されています。その理由はシンプルで、「役に立つ」からです。日本企業においても、ABMは非常に有効な戦略ですが、まだ十分に活用されていないのが現状です。

しかし結論を先に申し上げると、日本企業、特に社歴の長い製造業やIT企業などがABMに向いていると言えます。強固な顧客基盤、優れた商材、そして営業基盤を持つ日本企業は、ABMで成功するポテンシャルを多く持っています。ところが、それを活かすための知識やノウハウが不足しており、B2Bマーケティングそのものに対する理解が浅いことが課題です。

ABMとは何か?その有効性を改めて理解する

ABMは、市場シェアを取りにいくのではなく、特定のターゲットアカウント(法人顧客)に焦点を当て、そのアカウントの中の自社のシェアを取りに行くマーケティング戦略です。従来の「広く浅く」マーケティングを行う手法とは異なり、「狭く深く」一つのアカウントに向き合うため、特に既存顧客の深耕や大口取引先へのアプローチにおいて高い効果を発揮します。

たとえば、ある電子部品メーカーは主要取引先に20名もの営業担当を配置していましたが、取引先の5,000~6,000人のエンジニアのうち、実際に接触できていたのはわずか数%でした。しかし全社でABMを導入し、デジタルツールを活用した顧客全体にアプローチする仕組みを作り上げた結果、売上が1年間で15%も増加したのです。このように、ABMは既存顧客との関係を深化させ、収益を拡大するための強力な戦略であることがわかります。

日本企業がABMに向いている理由と課題

日本企業、特に歴史のある製造業やIT企業は、ABMを実践するためのポテンシャルを大いに秘めています。強固な顧客基盤、優れた商材、そして熟練した営業基盤という要素は、ABM成功の鍵を握る重要な要素です。しかし、それにも関わらずABMのアプローチを活かせていない原因として以下の課題が考えられます。

1. 戦略の欠如

多くの日本企業は、ABMを単なるデジタルツールの導入と捉えがちです。しかし、ABMはマーケティング戦術ではなく、組織全体を巻き込む戦略そのものです。まずはターゲットアカウントを選定し、成長目標やリソース配分を明確にした戦略を立案することが不可欠です。

2. 組織体制の不備

ABMの成功には、マーケティング部門と営業部門の連携が欠かせません。さらに、データを分析して戦略を支えるデジタルマーケティングの専門人材や、部門横断的なチームの設置も必要です。しかし、日本企業では部門間の壁が厚く、情報共有がスムーズに進まないことが多いのが実情です。

3. データマネジメントの重要性

ABMを成功させるためには、顧客データの統合と分析が重要です。データクレンジングや行動データの収集、ターゲットアカウントに合わせたコンテンツ提供など、データを活用した精緻なマーケティングが求められます。しかし、こうしたデータ活用の基盤が整っていない企業も少なくありません。

ABM導入の事例と具体的な手法

ABMの成功例としては、前述した電子部品メーカーのほかにも、日本企業の成功例が増えつつあります。たとえば、ある大手製造業では、「カバレッジ分析」と「LDO(リードデータオプティマイゼーション)」を活用することで、既存顧客に対するリーチを大幅に拡大しました。

  • カバレッジ分析:顧客企業内部の各部署や主要な意思決定者との接点を可視化し、情報伝達のギャップを特定する手法です。これにより、見落とされていた重要な人物へのアプローチが可能になります。
  • LDO(リードデータオプティマイゼーション):ターゲット層に対して最適なコンテンツを最適なタイミングで提供する手法です。これにより、既存顧客とのエンゲージメントを深め、商談化率を向上させることができます。

日本企業の未来を切り拓くABMの可能性

ABMは単なるマーケティング手法ではなく、企業全体の成長戦略の柱となり得るアプローチです。特に日本企業においては、長年培ってきた強固な顧客基盤や営業力を活かしながら、デジタル化を進めることで、新たな成長の可能性を切り拓けるでしょう。
「眠れる獅子」とも言える日本企業のポテンシャルを呼び覚ますために、ABMが果たす役割はますます重要になっています。ABMを成功させるには、戦略立案から組織改革、データ活用まで、企業全体が一丸となって取り組むことが求められます。今こそ、日本企業がABMを実践し、世界の競争市場でさらに強い存在感を発揮する時です。
この機会にぜひ、ABMを自社の戦略に取り入れ、新たな成長の扉を開いてください。