ICP(Ideal Customer Profile)は「理想的な顧客プロファイル」と訳され、最近、グローバルのB2Bマーケターとの会話中で、ABM(Account Based Marketing)やキャンペーン設計のターゲティングに関連して良く使われる言葉です。
比較的新しいマーケティング用語で、未だオーソライズされた定義があるわけではありません。企業版のペルソナという説明もあれば、ペルソナの対極という説明もみられます。
ただ、言葉の定義はされていなくとも、とても大切な概念であることは事実です。マーケティングを展開する時にここを定義していなければ何も始まらないからです。
では、この言葉と以前から使われている「ターゲットセグメント」や「ペルソナ」との違いを説明しましょう。
ターゲットセグメント
コトラー博士が提唱したSTPで定義されたターゲット市場です。セグメンテーションで市場を細分化し、その中から狙うべき市場として定義されたものを指します。
ペルソナ
リードジェネレーションやコピーライティングなどでコミュニケーションの解像度を上げる目的でターゲットの個人像を詳細に描くことです。
ICP(Ideal Customer Profile)
製品やサービス、または事業全体にとって理想的な顧客プロファイルを言語化したもの
この言葉で特徴があるのは「Ideal:理想的な」という部分です。これはただ規模が大きい企業であるとか、業種がどこかとか、現状の取引金額が多いとかという話ではなく、自社の製品やサービス、あるいは事業にとって、大きな収益をもたらす企業という意味での「理想的」なのです。
ですから、ここを探すのは単に過去の購買履歴データを見たり、企業の属性情報を比較したりするのではなく、もちろんMA(Marketing Automation)内のリードデータやその行動履歴を数えるだけでもなく、イマジネーション(想像力)を働かせる必要があります。
具体的な企業をイメージしながら、その企業は、どんな業種のどんな規模のどんな企業で、そして、その中のどの部署で、こういう課題に直面している人が、このサービスを導入したら、こんなパフォーマンスが出る、そして、その後どのようにビジネスが継続し取引の拡大が見込めるかという想像が必要なのです。
私はB2Bマーケティングの魅力を表現する時に「科学と感性のバランス」と説明します。このICPはこの両方を駆使しないと探すことはできないのです。
例えば、すぐに購入してくれそうな企業を探せば「同じスペックで最も安い価格を提示する企業」を求めている企業でしょう。あるいは「最も早い納期で提案してくれる企業」かも知れません。しかしその企業が求める価値が「安い」「早い」だけであるなら取引が長く続くことはないでしょう。もっと安い価格を提示されればすぐにそちらに発注するからです。「理想的」とは長く続く関係を構築できるという意味でもあり、それを数値化すればLTV(Life Time Value)を最大化できるということになります。
そう考えれば企業の業種、業態、規模、財務などの属性情報はもちろん、その企業がどの事業に注力しているのか、近未来はどの分野に投資しようとしているのか、というデータを収集し、それを分析しなければなりません。
そうしたはっきりとした意思に基づいた行動履歴を「インテントデータ(Intent Data)」と呼び、それを分析して未来の方向性を探ることを「プレディクティブアナリティクス(Predictive Analytics)」と呼びます。
ABMについてはこちらのコラムでお話しました。
上述の通り、「科学と感性」を駆使しながらICPを探り定義することが、ABMでターゲットアカウントを選定し、その優先順位を付けるときに大きく影響してくるのです。そういう意味では、ICPを探る議論はB2Bマーケティングで最も大切で楽しいもののひとつになるでしょう。
ABMに取り組みたい企業は、ぜひ、社内で自社のICPについて議論し定義してみてください。