価値を定義しながら市場を探し、そしてフィットをチェックする

戦略 Column
価値を定義しながら市場を探し、そしてフィットをチェックする

世界中のマーケティング界でAIが話題を独占する状態が続いています。数年前までは単純作業からAI化がやってくると信じていた人々にとっては、クリエイティブ面での圧倒的な進化はショックでもありました。
2025年5月の今では、AIがメールを書く、ランディングページを作る、フォームをコーディングすると言っても誰も驚かないでしょう。

では、B2Bマーケティングで何が人間の仕事として残るのでしょうか?
私はDoV(Definition of Value)とICP(Ideal Customer Profile)を定義する作業と、そのマッチングを確認し、チューニングするPMF(Product Market Fit)は当分人の手に残ると考えています。
(DoVやICPについては、「DoVとICPの関係:鍵と鍵穴の関係性を紐解く(2025.3.25)」のコンテンツをご覧ください。)

製品やサービスには無限の組み合わせがあります。サービスは基本的には多面体ですが、それ故に角度を少し変えればそれがフィットする市場もまったく別のものになります。
中でも最も重要なミッションはPMFだと私は考えています。
なぜなら、多くの製品やサービスは既にリリースされています。そのリリースされている製品やサービスが、市場と少しずつずれています。市場は進化し、変化します。その変化に対応できなければ市場にフィットしなくなります。
3年前にフィットしていた製品が今はフィットしなくなっています。
PMFの大切さを説いている代表的な人物が米国の起業家マーク・アンドリーセンです。ネットスケープ社を設立し、ナビゲーターという圧倒的に使いやすいブラウザをリリースして米国の証券市場に上場を果たし、上場の最短記録を更新しました。

「やがてこのアプリケーションは世界を変える」

彼はそう宣言しました。
そのくらいの大成功だったのです。しかし、パソコンのOS(オペレーティングシステム)では圧倒的なシェアを持っていたマイクロソフトがブラウザの重要性に気付きインターネットエクスプローラー(IE)というブラウザをOSに組み込むことで、実質無料で提供しました。ほとんど同じ機能を持つ製品が無料で手に入る環境で有料製品を提供するのはあまりにも厳しい戦いでした。有料ブラウザという製品が市場にフィットしなくなったのです。
華々しく成功したネットスケープ社はあっという間に消えて行きました。
変化の早い市場ではPMFも短周期で繰り返す必要があります。
その時の理論的な指標のひとつがセオドア・レビット博士の「ホールプロダクト理論」です。

B2Bの場合、顧客が何かをスペックインしたり購入したり導入したりすることは目的ではありません。
課題を解決する、またはリスクをヘッジするための手段であり、手段のための道具のはずです。となれば、製品やサービスと「課題の解決」の間にギャップがあります。そのギャップを埋めなければ購入者は目的を達成できず、隙間が多ければそれがユーザーのストレスになります。
家族でドライブを楽しむことを目的に自動車を買ったとします。納車されてみたらカーナビがついていません。地図を見ながらの運転は危険です。仕方なく別売りのカーナビを追加します。カーナビを取り付けてドライブに行こうと思ったら最新の地図がインストールされていません。問い合わせると別売りで、それも有料でダウンロードしなければなりません。
売り手から見れば「自動車とカーナビは別の製品でしょ」となるし「ハードとしてのカーナビと、ソフトウェアとしての地図情報は別の製品でしょ」というのはその通りです。でもそもそも家族で安全なドライブを楽しみたいというのは、自動車購入の目的だった人から見れば大きな不満になります。これがギャップです。放っておけば誰かがそれを埋めてしまい、その人がストレスを抱えている市場を奪っていきます。

こうした価値を定義し、その価値の市場を定義し、そのフィットをチェックしチューニングするという途方もなく変数の多い作業はしばらく人の作業として残ると私は考えています。
だから、古典を学ばなければならないのです。



前回のコラム
DoVとICPの関係:鍵と鍵穴の関係性を紐解く