ABMを阻む「俺の客」問題
ABM(Account Based Marketing)の基本は、既存顧客を対象にクロスセルとアップセルを極大化することで、競合を排除し、顧客との関係性を強化することです。まれに、ABMのフレームワークや手法を応用して新規獲得を狙うことも無くはないですが、エンタープライズB2Bにおいては圧倒的に既存顧客に対して、点から面へ展開するための関係強化が基本戦略となります。
しかし、ABM戦略の一番の問題は、社歴の長い日本企業では、既存の大口顧客に対しアカウントセールスや古参の販売代理店がしっかり入り込んでいること。そして、「ここは我々がちゃんと守っているから余計なことをしないでくれ」とマーケティング活動を拒否することです。これをシンフォニーマーケティングでは「俺の客問題」と呼んでいます。
ABMは全社戦略、マーケティングだけでは実現することはできない
大手企業にありがちなのが、せっかくマーケティング組織を作って、ツールも導入し、いざABMを開始する準備が整っても、営業部門から既存顧客に触ることを拒否され、仕方なくロングテールと呼ばれる中小企業や新規顧客に対してしかマーケティングを行うことができない企業もあります。当然そこで成功しても全社の売上に対するインパクトは微々たるものです。
日本企業のひとつの特徴として「営業部門の社内政治力がとても強い」というのがあります。マーケティングやインサイドセールス、カスタマーサクセスなど本来分業すべき売上を作るプロセスを全て営業部門に丸投げしてきた歴史により、それを引き受けて数字を創ってきた営業部門の政治力がコントロール出来ない程に大きくなってしまっています。
最近は、当社のコンサルティング部門へ組織コンサルの依頼が多くなっていますが、これは自社内だけでは、営業部門へのマーケティングに関する説明や協力要請をうまくすることができないという問題が背景にあります。
しかし、営業部門とのプロセスの役割分担を整理しないとABMを始めることすら出来ません。
ABMは部門毎に自由度を認める「戦術」ではなく、全社で取り組むべき「戦略」です。上層部の戦略的意識決定と、それを実現するために関係者が「戦略」を理解し、マーケティング部門と営業部門の連携を強化しなければ、ABMを行うことはできません。