ABMの起源 “THE ONE TO ONE FUTURE” という本

庭山 一郎 ABM
ABMの起源 “THE ONE TO ONE FUTURE” という本

北米のマーケターたちのバイブル

“THE ONE TO ONE FUTURE”という本は、無名のマーケティングコンサルタントだったドン・ペパーズと若手の研究者マーサ・ロジャーズのコンビが、マーケティング界のスターに躍り出るきっかけとなった1冊だった。
1993年の出版当時は、相当のインパクトがあり、ドン・ペパーズの講演スケジュールは数ヶ月先まで埋まり、講演のギャラも高騰した。コネチカット州にドンが購入した自宅にはインドアテニスコートがあると噂されるほどだった。
このようなビジネス本としては珍しく、米国で出版された約1年半後には日本語訳され「One to One マーケティング」と題して出版された。

The ONE to ONE FUTURE 日米書籍

※画像Amazonより

ドンとマーサは会社を設立し、その会社で「One to One」という言葉を商標登録した。この言葉がダイレクトマーケティングやデータベースマーケティングの代名詞となり、この言葉を冠した製品やサービスが出るたびに彼らの会社に利益をもたらした。

この本の特筆すべき点は「ライフタイムバリュー(Life Time Value:LTV)」に光を当てたことだろう。シェアの概念をそれまでの「エリア内での市場占有率」から、「個人が一生の間にある分野に使うお金を分母にした占有率」に転換したのだ。
このLTVを獲得しようと思えばマスメディアを活用したイメージ戦略ではなく、個人のライフスタイルや家族構成、所得レベルなどを完備した顧客データベースを構築し、個別にコミュニケーションしなければならず、それがCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)というソリューションの爆発的な普及の起爆剤になった。
さらに後年、法人のLTV獲得の戦略としてABM(アカウントベースドマーケティング)にまで強い影響を及ぼしている。ABMを最も早くから研究していた米国東海岸のアドバイザリーファームITSMA(現Momentum ITSMA)はABMの年表を作成したが、その起源として1993年の“THE ONE TO ONE FUTURE”の出版としている。

またABMに関して世界で最も影響力を持つ元MarketoのCMOで現在はDemandbaseでCMOを務めるジョン・ミラーも「マーケティングの虜になったきっかけはこの本との出会い」と言っている。
そういう意味では、マーケティングの歴史に刻まれるエポックメイキングな本かも知れない。

私は1993年の出版直後に米国の友人から強く勧められてニューヨークのバーンズ&ノーブルでこの本を購入し、ホテルで夢中になって読んだ。日本語版は、当時CSKグループだったベルシステム24が周年記念で1995年に出版した。