マーケティング オーガナイジング パラドックスを乗り越える

庭山 一郎 CMO
マーケティング オーガナイジング パラドックスを乗り越える

マーケティング部門に忍び寄る「マーケティング オーガナイジング パラドックス」の真実

マーケティングに取り組んだ企業が、3年から6年以内にぶつかる壁があります。
これを私の会社では「マーケティング オーガナイジング パラドックス(The Marketing Organizing Paradox)」と呼んでいます。

多くの日本のB2B企業はこれまでマーケティングに投資をしていませんでした。
せいぜい製品事業部ごとに展示会に出展する程度のため、事業部予算の話しであり、企業の投資ではありません。この時、ROMI(マーケティング投資利益率:Return On Marketing Investment)でみると実は悪くはないのです。なぜなら、リターンはもちろんありませんが、投資もしていないからです。

ところが、マーケティングに本腰を入れ、マーケティング組織を創って人員を配置し、外部から経験者を招聘し、マーケティングに必要なさまざまなツールを導入し、投資を行ってもすぐに売上に貢献できることはありません。
これらは製造業でいえば工場のようなもので、ものづくりのインフラだからです。

インフラは常に投資が先行し、回収はずっと先になります。製造業で工場の用地買収や製造ラインの設計をしている段階で、その工場からの利益を期待する人はいないでしょう。それは何年も先のこととわかっているからです。

しかし、マーケティングに関しては、いきなり利益を期待されます。創ったばかりの組織で、ナレッジもたまっておらず、データの質も、量も不足していて、コンテンツもいまだ足りない状況で、ある日突然「ROI(ROMI)でレポートを出してください」と言われます。

リターンなどありませんから、マーケティング部門の評価は散々なものになります。
これが、企業がマーケティングに取り組んだことで陥るマーケティングオーガナイジングパラドックスです。
もしこの時にCEOや経営陣に、マーケティングに対する理解が無ければ、せっかく構築しかけているマーケティング組織は部門縮小やキーパーソンの移動、最悪はマーケティング部門の解散になってしまうケースまであるでしょう。
それに先行投資して蓄積した経験やナレッジはゴミ箱行きです。

さらに、「この会社にマーケティングは不要」「ウチの企業文化にマーケティングは合わない」などの間違った評価が定着し、気がつかないうちに企業の未来まで潰してしまうことになります。これはもちろん経営陣のマーケティングへの理解の低さが原因なのです。

実は、私がCMOの重要なミッションにCEOを始めとする経営陣とのコミュニケーションを挙げているのはこのためなのです。
経営陣を説得し、「先の長い先行投資ながら、今やらなければならない大切なものだ」と理解してもらわなければなりません。そのために私は全国を飛び回っています。