日本企業がフォーカス出来ない残念な理由

戦略 庭山 一郎
日本企業がフォーカス出来ない残念な理由

アル・ライズの代表作「フォーカス」とは

米国のマーケティングコンサルタントのアル・ライズの代表作に「フォーカス」という本があります。
ポジショニングに関する著書である「ポジショニング戦略」が知られていますが、私はアル・ライズの代表作はこの「フォーカス」だと考えています。その理由は、この本が書かれた1990年代中頃に当時全盛だったポートフォリオ経営を真っ向から批判している事です。

リスク分散のためにも企業は健全な多角化を推進すべきという当時の風潮に多くの事例を挙げて反論しています。中でも当時世界最高の経営者と言われたGEのジャック・ウェルチの財務上最大の功績であった金融サービスへの進出を手厳しく批判し、GEはこれが原因で凋落の道を辿るだろうと予言しています。

アル・ライズはこの「フォーカス」の中で日本企業にも批判の矛先を向けています。「トヨタとNTT以外はまったくフォーカス出来ず、コングロマリットへの危険な道を歩んでいる」と書いています。この20年の日本企業の衰退を見事に予言しているのです。
では、なぜ日本のエンタープライズ企業はフォーカスが出来ないのでしょうか?

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※画像Amazonより

フォーカスができない理由とは

私はマーケティング不在が原因だと考えています。

CEO自身がマーケティングを体系的に学んだ経験を持たず、CMOもいない日本企業は、羅針盤を持たずに荒海を航海する船のようです。現在位置も分からず、進む方向も分からなくなっています。本来M&A(企業買収)は自社の提供する価値を強化する戦略に基づいたものでなければうまくはいかないのです。

近年日本企業でもCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)という部門を設けてベンチャー投資を行っています。しかし多くの場合、自社のコアビジネスとの連携は考えていないかのように見えます。「なぜこの会社に投資したのですか?」と質問しても、戦略的な答えは返ってきません。 マーチャンダイジング(MD:製品やサービス、付加価値の品揃えを設計すること)の思考に立てば、この業種のこの規模のこういう課題を解決するにはこの会社のこの技術がないと駄目という必須条件に投資すべきなのです。
CATIAという自動車や航空機の設計デザインに使われる3次元CADのトップブランドを持つダッソーシステムズが、より小型な製品の設計に使われるソリッドワークス社を買収したのは彼らのプラットホーム戦略に無ければならないピースだったからです。

アナリストファーム業界で最大の競合であるガートナーに規模で水をあけられていたフォレスターがシリウスディシジョンズを買収した理由は、ガートナーが不得意なB2Bのマーケティング&セールスで圧倒的な競合優位性を握ることが目的でした。シリウスディシジョンズは元々ガートナー出身者が作った企業ですから、ガートナーが買収する可能性が高かったのです。フォレスターの創業者でCEOのジョージ・コロニーの素早い買収の決断はターゲット市場に提供する価値のマーチャンダイジングが頭に入っているから出来た事なのです。

どういう価値を市場に提供するのかというマーケティング戦略の最も重要な部分が欠落したままであれば、今の日本の脈絡の無いM&Aと失敗続きのベンチャー投資は続くでしょう。