ものづくりにこそマーケティングナレッジを

庭山 一郎 儲けの科学
ものづくりにこそマーケティングナレッジを

市場を見ていない日本のものづくり

マーケティングと連携(アラインメント)できていないのは、営業だけでなく、研究開発や設計などのものづくりも同じです。

私は顧客が製造業の場合、工場見学をさせてもらうようにしています。製造業の魂は工場に宿っていると思うからです。
地方にある大きな「事業所」と呼ばれる工場の敷地の奥に、研究開発棟と呼ばれる建物があり、そこでパーツや素材などのものづくりの研究が行われています。そこにいる人たちは展示会にも参加しますし、情報収集でWebを活用し、ウェビナーもよく利用しています。私はそこで、

「顧客とのコミュニケーションはどうしていますか?」

と質問します。多くの場合「顧客とは営業を通して……」となり、「ではその営業さんとのコミュニケーションはどうされていますか?」と問うと、「定期的なものはありません」と答えが返ってきます。つまり、顧客との唯一のインターフェースである営業とも、あまり頻繁にコミュニケーションしていないのです。これでは売れる製品やサービスを開発できるほうが奇跡です。

企業によっては、技術者でも必ず営業を経験させる企業があります。離職のリスクもありながらこのローテーションを実施している理由は、顧客理解を高めるためであり、今風に言うなら顧客の解像度を上げるためです。
ビジネスのアイデアはいろいろな部門や人材から出てきます。新しい素材を調査していた技術部門からであったり、競合を調査していた製品開発チームからだったりします。顧客と最もコミュニケーションしている営業からの提案の場合もあれば、物流や人事でもアイデアを思いつくことはあるでしょう。

問題は日本企業にはその受け皿がないことです。マーケティング部門は常に市場、つまりマーケットを見ています。市場と向き合っている部門であり、常にコミュニケーションしている部門でもあります。技術や営業などから出てきたアイデアを、市場からの目で精査し、アレンジし、「市場が最も価値を感じる形で製品・サービスを創造」しなければ売れる製品やサービスにはなりません。
そして、その製品やサービスの成功の定義は以下の2点です。

「新しい顧客を創造したのか?」
「既存顧客を維持・拡大したのか?」

出典:儲けの科学 The B2B Marketing 庭山一郎著(日経BP)より