「ABX」というカメレオンのような言葉

庭山 一郎 グローバル ABM
「ABX」というカメレオンのような言葉

「X」の4つの意味

言葉は生き物だと言われている。時代や環境で変化するし、多様な意味を持ち、中には時代を経てまったく違う意味で使われる言葉も珍しくない。
B2Bマーケティングの世界にもそんな言葉がある。例えば「ABX」だ。2023年3月の時点で少なくとも4つの略語として使われている。だから相手がABXと言ったらその「X」が何を指すのかを確認しないと会話を進められない。

ABX

1つめの「X」Everything

「ABX」とはABM(Account Based Marketing)から派生した言葉である。恐らくその最初は元MarketoのCMOで、今はDemandbaseのCMOを務めるJon Miller氏が「Account Based Everything」と言ったことだろう。その意味は「ABMは戦術(タクティクス)ではなく戦略(ストラテジー)だから、ABMを中心にしてすべてを考えないとうまくいかないよ」という示唆に富んだ言葉だった。この言葉が一人歩きして、米国のカンファレンスなどでは、これを「ABX」と表現し、「大切な事はAccount Based Everythingだ」と言う人が出てきた。この場合の「X」はCXOという表現で使われる「いろいろ」的な意味がある。日本語に置き換えると「ほにゃらら」が一番近い。

2つめの「X」Transformation

次に出てきた「X」はトランスフォーメーションという意味で、これは明らかに「DX(デジタルトランスフォーメーション:Digital Transformation)」から来ている。つまり、ABMを戦略として全社を再構築しようという、どちらかというと組織設計の文脈だし、テクノロジーを基盤としてというIT系の香辛料が利いている。

3つめの「X」INDEX

その次に、英国のマーケティングコンサルタントの間で使われ始めた「X」はINDEXの略だ。これは「指標」という意味で使われることが多く、ABMに取り組んだ企業の進捗を数値的に指標化しようという試みを「ABX」と呼ぶ一派が今でも存在する。

4つめの「X」Experience

そして今、最も使われている「X」は「Experience:体験」だろう。これは「顧客体験」という文脈で使われるCX(Customer Experience)から来ている。2023年3月に米国スコッツディールで開催されたB2B Marketing Exchangeという大きなB2B系のカンファレンスには、弊社から副社長が参加したが、彼女のレポートによれば、会場で使われていた「ABX」はほぼこのAccount Based Experienceだったそうだ。

言葉は生き物で刻々と変化し、進化する。それを嘆いても仕方がない。我々はただ情報を収集し、確認して使い分けるだけだ。そういう時代に我々は生きている。

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